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名古屋地方裁判所豊橋支部 昭和42年(ワ)212号 判決

主文

被告らは原告に対し合同して金五〇三万一、六八九円およびこれに対する昭和四二年一〇月一〇日から完済に至る迄年五分の割合による金員を支払うべし。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

この判決は原告において金一五〇万円を担保として供託するときは仮りに執行することができる。

事実および理由

原告訴訟代理人は、「被告等は合同して原告に対し金五二四万七、三〇九円およびこれに対する本訴状の被告らに送達せられた翌日から完済に至る迄年五分の割合による金員を支払うべし、訴訟費用は被告等の負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として 一、原告は商号伊藤材木店と称し材木商を営む者であるか、昭和四一年七月一八日被告らから愛知県北設楽郡東栄町大字足込字大沢三〇番山林一九、九三三・八八平方メートル(二町一畝歩)の地内の立木一切、同所三一番山林三、五七〇・二四平方メートル(三反六畝歩)の地内の立木一切を代金五〇〇万円で買受ける契約を為し、その売買代金全額を右契約当日支払いを了した(甲第一号証、証人山本広士)。二、原告は右立木の売買契約当日訴外浜松市中野町二二三六番地株式会社玉木材木店に対し、右買受立木を伐採して生産する杉素材一四五〇石を二間材石単価金四、二五〇円、桧素材二五〇石を二間材単価金四、八〇〇円とし各半端材は減価額と定め、右素材搬出期間を同年八月下旬より同年一〇月末日迄と定めて売買契約し、同日契約金として金五八〇万円を受取り、残代金は右素材引渡完了後支払を受ける契約をした(因に原告はその後右素材引渡完了前ではあるが残代金の内両度に金一〇〇万円を受領した)。原告が右訴外会社に右素材を売約した事実は当時被告らも知つている(甲第六号証、証人玉木竜雄)。三、原告はその後前項の素材売約にもとづき被告らから買受けた立木を伐採し造材して素材となし素材七二〇石四合(半端材も含み)四トン積トラツク二八台分、金にして金三〇二万八、二一一円を搬出して輸送し素材買受人の訴外会社に引渡した。そして引続き造材せる素材を搬出し一方買受立木を伐採して造材せんとしていた(甲第二号証、証人玉木竜雄)。ところが、突如昭和四一年九月二八日名古屋地方裁判所執行官白井敏雄は右第一項記載の二筆の山林に臨み標札を立て名古屋地方裁判所豊橋支部昭和四一年(ヨ)第一一二号仮処分決定により、当該二筆の山林を表示し秘申請人井沢光(被告)はこの山林に立入りその地上に存する一切の立木を伐採、搬出および伐倒木の搬出をしてはならない。占有の変更、譲渡等その他一切の処分をしてはならない旨を表示し、「以上仮処分により本職の占有に移した物件なる為に何人もこれが処分してはならない。若しこれを処分し本公示を無効にしたときは刑罰に処せられる」と記載して公示した(甲第八号証)。又同執行官は同決定により別の標札を立て前記二筆の山林と「素材約六〇〇石(杉四〇〇石桧二〇〇石)」と表示し、「以上仮処分により本職の占有に移した物件なる為何人もこれが処分してはならない。若しこれを処分し本公示を無効にした時は刑罰に処せられる」と記載して公示した(甲第七号証)。被告井沢光に対する右仮処分の当否は別論として、右仮処分の執行により前記第一項記載の山林二筆および同山林中に在つた伐倒木がすべて執行官の占有に移りその処分を禁ぜられたのであるから、原告は前記第一項の立木買約に基づき、該山林中に在る立木を伐採し伐倒木を造材することも素材を搬出することも不能となつた為に、原告は前記第二項の素材契約に基づきその買受人に対し素材引渡の履行を為すことができなくなつた(甲第二乃至第八号証、証人白井敏雄、同玉木竜雄)。四、昭和四二年七月一三日名古屋地方裁判所豊橋支部執行官白井敏雄外一名は、前記仮処分申請人たる訴外井沢俊夫の委任により、仮処分物件の換価処分として前記第一項記載の二筆の山林内に在つた杉檜取交ぜ素材約六〇〇石(原告の造材したもの)を競売に付し、代金三二六万円で競落されその換価処分を了した(証人白井敏雄)。五、以上の如くして遂に被告らは原告に対し第一項記載の立木売買契約に基づく履行を為す能わざるに至つた。原告はその売買物件たる立木につき被告らにおいて処分権ありと信じて買約し代金を全部支払つたのである。従つて、支障なく買受立木を伐採し得るものと信じて商取引をしたのである。しかるに、それが如何なる理由かは原告の全く知らないところであるが、訴外井沢俊夫の申請による仮処分決定により、原告が被告らから買受けた立木およびこれを伐採した素材が執行官の占有に移されるに至り、殊に被告らは契約履行上の障害を直ちに排除し得ず遂に原告の造材せる素材をも換価処分されるに至り、被告らは原告に対する立木売買契約の履行を為す能わざるに至つたことは原告に対しては被告らの責に帰すべきである。右履行不能により原告は買受立木を伐採しこれを造材した素材を売約してある関係上その損害は大であるか(甲第二号証)これは被告ら合同して賠償すべきである。六、原告は昭和四一年七月一八日被告らから買受けた立木およびその伐採して造材した素材につき前記の如く裁判所の仮処分決定により執行官の占有され、殊にその伐採して造材した素材については競売され、被告らはその責に帰すべき事由により立木売買契約の履行不能となつたことに因り現在原告は左記のとおりの損害を被つている。(一)金三〇五万二、三八九円、原告は被告らに対し本件立木代金五〇〇万円を支払つている(甲第一号証)。原告は右立木を伐採した杉、檜素材計一、七〇〇石を訴外株式会社玉木材木店に売約し、その代金を定める上において一石につき伐採費、出材費、運搬費計金一、〇〇〇円および利益金二〇〇円と予定しこれを含めて右素材代金額を協定した(前記第二項参照)。しかるに、原告が右訴外会社に杉素材七二〇・四石(半端材を含む)この価格金三〇二万八、二一一円を引渡した段階において前述立木および素材に対する仮処分が為されその余の引渡が出来なくなつた。右引渡石数の価格(金三〇二万八、二一一円)から同石数に対する原告の右費用および利益合計金八六万四、四八〇円(720.4×1.200)を差引き金二一六万三、七三一円は同石数の立木原価である(立木買受原価とは異る)。よつて、原告が被告らに支払つた金五〇〇万円から右訴外会社に引渡済みの素材の右立木原価を差引金二八三万六、二六九円は、被告らの原告に対する立木売買契約の履行不能により原告の被つた損害である。(二)金九万円原告が被告らから買受けた立木を伐採した素材約六〇〇石を仮処分により執行官の占有に移され、後に競売されたことにより原告は右立木の伐採費一石当り金一五〇円の割合による損害を被つた。(三)金一九万五、九二〇円、原告が右訴外会社に売約した杉、檜素材は一七〇〇石でこの内引渡済の石数は杉素材七二〇・四石に過ぎない。被告らが原告に対する立木売買契約が履行不能とならなければその余の残素材九七九・六石を右訴外会社に引渡し得て原告は一石につき利益金二〇〇円合計金一九万五、九二〇円の利益を得べきであつた。これを失いたることにより原告は同額の損害を被つた。(四)金一五八万七、〇〇〇円、原告は訴外株式会社玉木木材店に対し、昭和四一年七月一八日浜松市中野町にある右訴外会社工場荷渡で杉素材一、四五〇石を一石二間材金四、二五〇円、檜素材二五〇石を一石二間材四、八〇〇円と定めて売約した。しかるに、被告らの立木売買契約履行不能に陥り原告は右杉素材(半端物を含み)七二〇・四石を引渡したのみでその余の九七九・六石の履行が出来なくなつた。即ち、売約の杉素材の昭和四二年一〇年上旬当時における現在価格は優に一石金五、五〇〇円であるので、昭和四一年七月一八日右訴外会社に原告が売渡した一石金四、二五〇円との一石当りの差額金一、二五〇円の不履行分杉素材七二九・六石の差額計金九一万二、〇〇〇円および昭和四二年一〇月上旬当時の現在における右檜素材価額は優に一石金七、五〇〇円であるので昭和四一年七月一八日右訴外会社に原告が売渡した一石四、八〇〇円との一石当りの差額金二、七〇〇円の不履行の檜素材二五〇石の差額計金六七万五、〇〇〇円、即ち右合計金一五八万七、〇〇〇円は右訴外会社において得べかりし利益を失つた損害(鑑定人鈴木皓の鑑定)として賠償を請求されている(甲第二号証)。これは当然原告が右訴外会社に対し負担する損害賠償債務である。この債務額は被告らの原告に対する立木売買契約が履行不能となつたことより原告の被つた損害である。(五)金三二万二、五〇〇円原告は被告らから前項第一項記載のとおり二筆の山林地内の立木一切を代金五〇〇万円で買約したので、右立木を仮りに右訴外会社に売約した素材石数、即ち杉一、四五〇石、檜二五〇石に限定しても、立木買受原価と伐採してその素材を右訴外会社に販売せる場合における立木原価と差額所謂立木買受利益を次のとおり得べきであつた。(1)原告か訴外会社に杉素材を販売するに当り一石につき伐採費、出材費、運搬費を金一、〇〇〇円、販売利益を金二〇〇円と計算し、二間材一石の代金四、二五〇円と協定し要するにその立木原価を一石金三、〇五〇円と評価したのである。(2)原告か右訴外会社に檜素材を販売するに当り一石につきその費用および販売利益を右(1)と同じく計金一、二〇〇円と計算し、二間材一石の代金四、八〇〇円と協定し、要するにその立木原価を一石金三、六〇〇円と評価したのである。従つて、原告が右訴外会社に素材を販売契約したときの立木原価の評価は、杉一、四五〇石分計金四四二万二、五〇〇円であり、檜二五〇石分計金九〇万円その合計金五三二万二、五〇〇円である。右素材販売のとき評定した立木原価金五三二万二、五〇〇円から被告らに支払つた立木代金五〇〇万円を差引金三二万二、五〇〇円は原告が被告らから立木を買受けたことによる差益で、被告らが立木売買契約の本旨に従い履行したならば原告の得べかりし利益である。然るに、右立木売買契約の履行不能により原告は右得べかりし利益を失い同額の損害を被つた。七、以上の損害合計金五二四万七、三〇九円は被告ら合同して原告に対し賠償すべき義務がある。因に原告は被告らの立木売買契約の履行不能により右列記の損害の外になお損害を被つているが、その請求権の行使は一応保留する。よつて本訴請求におよんだ。と述べなお売主は買主に目的物を引渡し買主をして引続きその占有を得しめるのみを以ては足らず、買主をしてこれを完全に享受させるのに必要な一切の行為をしなければならない義務がある(民録二一輯一二五頁)。従つて、立木売買において売主は立木を引渡し買主をして引続きその立木およびこれが伐倒木の占有を得しめなければならないのみならず、その売渡立木を伐採しこれを該山林地内から搬出することを得せしめて買主をして処分し得る状態に至らしめる義務がある。しからざれば、立木の買主は立木を買受けた目的を達し得ないからであるところが、本件は立木買主たる原告が未だ本件山林地内において買受立木およびその伐採木を占有中に、第三者から本件山林の所有権を被告井沢が冒認するものだとして仮処分執行されたのである(甲第三、四号証)。売主は買主をして完全に売買の目的たる財産権を取得し、自由にその権利の行使を為すことを得しめる為に買主がその権利を以て第三者に対抗する必要な行為を為す業務がある。故に、立木売買において買主が売主を信じ売主が二重売買するとか、売主の債務の為めに強制執行されるが如きことこれ無きを信じている場合は、買主は売主に対し敢えて対抗要件の履践を請求しないのが通例であるが買主に安心を与える誠実な売主は買主の請求がなくとも対抗要件を講ずる義務がある。しかるに被告らは対抗要件を講ずべき義務を買主に転嫁し売主たる被告の責任を脱せんとするのは誤りである。尤も本件に関する仮処分の理由に徴するに立木売買の事実を確認してもその執行は為されたであろう。否、立木売買を知つたから仮処分が為されたものと推測し得る。訴外井沢俊夫の仮処分申請の理由は、被告井沢が本件山林の所有権を冒認していると主張しその疎明を為している。その真否は被告井沢の知悉するところであつて、原告は全く不知であつて想像だもせざるところであつた。被告井沢は少くとも右様の主張を右訴外人がされるおそれのあつた事情は知つていた筈である。このような場合井沢は原告にこれを告知する義務があるけれども、被告井沢は原告に対してこれを秘していた。また右仮処分に対しその理由の当否に関する事実関係を知らぬ原告としては異議を申立てる義務はないが被告井沢としてはこれを争う理由あれば単に異議申立を為すに止まらず、本件立木売買の特別事情に基づき保証を立てて仮処分の一部取消の申請を為し、原告の不測の損害を防止すべき義務があるのにこれを果さなかつた。また本件は隠れたる権利欠缺(追奪担保)の責任を被告らは負うべき場合でもある、と附陳した。

(立証省略)

被告両名訴訟代理人は原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、請求原因第一項の事実を否認する、詳言すると、被告遠藤金次郎が本件山林に生育する立木一切を売却した(他人の物の売買)のであり、被告井沢光は右売買契約については何らの関係もない、同第二項事実は不知、同第三項事実については、昭和四一年九月二八日名古屋地方裁判所執行官白井敏雄が当庁昭和四一年(ヨ)第一一二号仮処分決定に基づき本件立木等につき仮処分の執行を為したことを認め、その余は不知、同第四項事実を認め、同第五項事実はすべてこれを争い同第六項の損害の内容数額はすべて争うと述べ、次のとおり主張した。一、本件山林(立木一切を含む)はもと訴外原田政久と被告井沢光との共有であり、その持分は同訴外人が三分の一、同被告が三分の二であつた。ところが、昭和四一年七月中旬頃被告井沢光は被告遠藤金次郎との間に本件山林につき、被告遠藤は本件山林の前記訴外人の持分を取得し(乙第一号証)でその持分権を被告井沢に譲渡する、被告井沢は右履行と同時に本件山林に生育する立木一切(山林の土地を除く)を被告遠藤に譲渡する(乙第二号証)、被告遠藤は被告井沢に対し右譲渡により生じた差額金一〇〇万円を支払う(被告両名本人尋問の結果)との予約を為した。かくして、被告遠藤は昭和四一年七月一八日右予約に基づき訴外原田政久より本件山林の三分の一の持分権を取得し、同月一九日これを被告井沢に譲渡し、被告井沢は同日被告遠藤に対し本件山林に生育する立木(杉、檜、松)一切(土地を除く)を譲渡すると共に被告遠藤より金一〇〇万円を受領した。右のとおりであつて、被告井沢は原告に対し本件山林の立木一切を売却していないし、また売却する訳はないのであり、これは被告遠藤が右予約に先立つて原告との間に他人の物の売買を為したものであり、被告井沢には何ら関係がない。従つて、被告井沢は原告より売買代金の受領もしていない。以上のように被告井沢が本件山林の立木一切の売買につき関係がない限り原告の右売買を前提とした被告井沢に対する本訴請求は理由がなく失当なものとして棄却せらるべきである。二、かりに、本件売買が被告井沢に関係がある(売買当事者)としても、本件山林の立木一切の売買契約については被告である売主側の債務はすべてこれを履行しており被告らに何等の負うべき責任はない。詳言すれば、原告は被告らに対して本件売買契約に基づく履行不能(仮処分による執行官の占有保管を不能原因とする)による損害賠償の請求を為しているが、これは全く失当である。つまり、被告らが原告に対し本件山林に生育する立木一切を売渡して引渡を為したのは昭和四一年七月一八日であり白井執行官か仮処分の執行を為したのは同年九月二八日である。本件売買は本件山林に生育するままの立木を売つたのであるから第三者に対する対抗要件としての明認方法を講じておかなければならなかつた。明認方法が施されていなかつた為右仮処分の執行が為された訳である。本件立木のみの売買契約につき被告たる売主側が負う債務は、立木を原告である買主側に引渡すことのみに尽きるのであつて、引渡完了後の立木の占有保管はすべて買主側の責任に属する(危険負担)。何故ならば、本件立木の所有権は引渡と共に完全に買主たる原告に帰属するからである。原告の主張する履行不能の原因を為す前記仮処分の執行は、本件立木の所有権が完全に原告に帰属した後の出来事であり、しかも右執行は右述の明認方法を講じていなかつた結果生じたものである。売主たる被告らは本件山林の立木を売却するに際し、現場を指示して本件立木の引渡を為し、爾後買主たる原告がその所有権を取得して占有保管を為していたのであるから、第三者に対する対抗要件としての明認方法は原告がこれを為すのが当然である。明認方法を講じていれば前記仮処分の執行は受けずに済んだことは明らかである。何故ならば、本件立木所有権は右対抗要件の具備により同仮処分事件の申請人に対抗し得るのであるから、それ以上の仮処分執行は違法行為となるからである。その後は申請人と被申請人との訴訟が残るのみである。また、明認方法を講じていなくとも原告は本件立木の所有権を明確にして執行官に仮処分の執行を拒否すべきであつた。もつもと右仮処分は不法なものだからである。被告井沢は、前記仮処分執行後は同仮処分が不法なものであつて理由がないので、直ちに仮処分異議の申立を為し、出来る限り原告に対し損害が生じないよう努力している。

以上の次第であり、原告の被告らに対する本訴請求は履行不能が前記仮処分によつて生じた為にこれにより被つた損害の賠償請求をするにあるが、右仮処分は原告が本件立木の所有権を取得しその引渡を受けた後対抗要件を講じて置かなかつた為になされたものであり、よつて、履行不能を招来したのもその原因は買主たる原告に起因するものであるから、本訴請求は理由がなく失当として棄却さるべきは当然と信ずる。なお、被告らは何ら故障のない立木を売渡したのに訴外井沢俊夫の理由なき仮処分により生じた問題故損害賠償は同訴外人に為さるべきである。と述べた。

(立証省略)

証人山本広士の証言に、同証言により成立の真正を認める甲第一号証、並びに証人玉木竜雄の証言に、同証言により成立の真正を認める同第二号証、同第六号証および成立に争いのない同第三、五、七、八号証に、証人白井敏雄の証言により成立の真正を認める同第四号証に、鑑定人鈴木皓の鑑定結果を綜合検討すれば、原告主張は請求原因第六項の(一)金三〇五万二、三八九円とある事実、同第七項中の以上の損害合計金五二四万七、三〇九円とある点を除き本訴請求におよんだと述べ、までの事実はすべてそのまま認定し得べく、右認定に副わない被告井沢光本人尋問の結果は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証左がない。而して、右金三〇五万二、三八九円とあるは金二八三万六、二六九円とするのが計算上正確であり、右損害合計金五二四万七、三〇九円とあるのは金五〇三万一、六八九円とするのが正確であることが認められる。重言すれば本件立木の売主は被告両名とみるのが相当であり、明認方法については、被告両名において売主として買主たる原告をして目的立木を完全に支配し、これを山林より売買目的の為伐採運搬を為し完全に利益享受せしめるに必要な一切の行為(対抗要件等)をしなければならない義務があるものと謂うべきである。そこで、右認定事実によれば、請求原因第六項の(一)は金二八三万六、二六九円の損害であり、(二)の金九万円はそのままこれを相当とし、(三)の一九万五、九二〇円も同様であり、(四)の金一五八万七、〇〇〇円の値上りによる損失は原告が訴外玉木材木店より賠償を求められている債務で、同債務は原告の同額の損害とみるのが妥当であり、(五)の金三二万二、五〇〇円が原告の得べかりし利益として同額の損害を被つたものと謂うべきであるので、右(一)乃至(五)の損害合計金五〇三万一、六八九円の損害を被告らは原告に賠償すべき義務があるものと謂うべきである。而して、本件訴状が被告らに送達せられた日の翌日が被告遠藤については昭和四二年一〇月一〇日、同井沢については同月九日であることは本件記録上明らかであるから、被告両名に対する原告の本訴請求は右合計金およびこれに対する昭和四二年一〇月一〇日から完済に至る迄年五分の割合による金員の支払いを求むる限度において正当であるからこれを認容し、爾余の請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

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